こんにちは。嶋野歯科医院、院長の嶋野です。
インプラントの手術中、私はパソコンにもカルテにも、レントゲンのスイッチにも触りません。照明の角度を変えたいときも、自分では手を伸ばさずにアシスタントに頼みます。
横着をしているわけではありません。手術の間、私の手と器具は「清潔域」から一歩も出さないと決めているからです。
インプラントは、細菌を持ち込まれると弱い
インプラントはチタン製の人工歯根で、骨としっかり結合して、天然の歯に近い働きをするものです。ところが手術中にインプラントの表面へ細菌が付くと、術後の感染や治りの悪さ、骨との結合不良、将来のインプラント周囲炎につながりやすくなります。
いったん表面に細菌の膜(バイオフィルム)ができると、抗菌薬だけでは取り除きにくくなります。感染してから治すより、最初から細菌を持ち込まない。インプラント手術の感染対策は、この一点に尽きます。
清潔域と不潔域の線引き
清潔域とは、細菌が付かないよう厳重に管理された範囲のことです。インプラント本体、ドリルやドライバー、滅菌した覆布(ドレープ)、術者のガウンと手袋がここに入ります。
不潔域は、それ以外の、普段の診療で触れるものすべてです。パソコン、カルテ、レントゲンの操作盤、照明のスイッチ、ドアノブ、電話。見た目にはきれいでも、滅菌されていない以上、ここに触れた手袋はもう清潔ではありません。
料理で言えば、生の鶏肉を切った手でそのままスマートフォンを触らないのと同じ感覚です。台所なら誰でも気を付けることですが、手術ではそれを数十分から数時間、一度も途切れさせずに続ける必要があります。
術者とアシスタントで役割を分けています
当院の手術では、術者の私は清潔域の中で手術だけに集中します。パソコンの操作、レントゲン撮影、照明の調整、追加の器具の準備は、すべてアシスタントの担当です。
万一、術者が不潔域に触れてしまったら、その場で滅菌手袋を交換します。インプラント本体も滅菌パックのまま置いておき、ドリリングが終わって埋入する直前に開封します。空気に触れる時間をできるだけ短くするためです。一つひとつは小さなことですが、こうした手順の積み重ねで感染のリスクは下がります。
手術室があれば安心、ではありません
当院には、一般の診療スペースとは分けたインプラント手術専用のオペ室があります。窓のない部屋にしているのは、人や空気の出入りをできるだけ少なくして、外からの汚染を減らすためです。
ただ、設備だけで感染は防げません。滅菌手袋のままパソコンを操作する、器具を滅菌していない場所にうっかり置く。清潔域と不潔域の区別があいまいなら、立派な手術室も意味をなさなくなります。大事なのは、スタッフ全員が同じルールを当たり前に守れていることです。
患者さまからはほとんど見えない部分です。それでも、10年後、20年後もインプラントを安心して使っていただくには、すべてのインプラント手術を院長が担当する理由と同じくらい、この見えない手順が大事だと考えてます。
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