こんにちは。嶋野歯科医院、院長の嶋野です。

一流の料理人やソムリエは、ほんのわずかな塩加減や香辛料の違い、ワインの香りの変化まで感じ取ります。特別な舌を持って生まれた人たちのように見えますが、多くの場合、その舌は訓練で作られています。

先日、味覚は経験で育つという話と、料理人が何度も味見をする理由を書きました。今回はその二つを踏まえて、プロが何を鍛えているのかという話です。

プロの味見は、味を分解している

料理人の味見は、おいしいかどうかだけを見ているわけではありません。塩味は適切か、甘味とのバランスはどうか、酸味が立ちすぎていないか、香りは広がっているか、食感は狙いどおりか、後味は心地よいか。一口のなかで、要素を一つずつ確かめています。

最初は「おいしい」としか感じられなかった料理も、経験を積むうちに「なぜおいしいのか」を分解できるようになります。

比べると、違いが見えてくる

味覚を鍛えるいちばんの方法は、比べることです。塩を3種類なめ比べる。産地の違うトマトを食べ比べる。醤油を何種類か並べて味わう。昆布や鰹節を変えて、出汁の違いを確かめる。

似たものを並べると、脳は違いを探そうとします。すると、それまで気付かなかった風味や後味の差が、少しずつ分かるようになります。家ですぐにできるので、まずは塩の食べ比べあたりからが手軽です。

香りを言葉にすると、記憶に残る

ソムリエは、ワインの香りを「ブラックチェリー」「カシス」「スミレ」「杉」「湿った土」と、驚くほど細かく言い表します。生まれつき鼻が優れているからではなく、果物や花、ハーブ、木など、日頃からさまざまな香りを意識して覚え、頭の中に香りの辞書を作っているからです。

料理人も同じです。「おいしい」で終わらせず、「昆布のうま味が主体」「柑橘の香りが爽やか」「後味に軽い苦味が残る」と言葉にする。言葉にした味は、記憶に定着しやすくなります。

回数より、正しい状態で味を見ること

以前お話しした味覚疲労があるので、ただ回数を重ねても精度は上がりません。水を飲む、無塩のクラッカーを食べる、少し時間を置く。口をリセットして、正しい状態で味を見ることのほうが大事です。

舌は、何歳からでも育つ

一流の料理人の味覚は、生まれつきの才能というより、観察し、比べ、言葉にし、経験を積み重ねてきた結果です。

毎日の食事も、少し意識を変えるだけで訓練の時間になります。よく噛んで味の変化を追う。香りや後味にも注意を向ける。「おいしい」の一歩先の、「何がおいしいのか」を言葉にしてみる。その積み重ねで、舌は年齢に関係なく育っていきます。