こんにちは。嶋野歯科医院、院長の嶋野です。

インプラント治療というと、手術が最も重要だと思われる方が多いと思います。

安全で正確な手術はもちろん欠かせません。ただ、30年以上この治療に携わってきて感じるのは、長期的な成功を左右するのは手術だけではないということです。その上に装着する人工歯、つまり補綴物の精度が同じくらい効いてきます。理想的な位置に埋入できても、上に載る補綴物の適合が悪ければ、本来の性能は発揮されません。

インプラントには、歯根膜というクッションがありません

天然の歯には歯根膜という組織があり、噛む力を吸収して分散するクッションの役割を果たしています。インプラントは骨と直接結合しているため、この機能がありません。

そのため、わずかな適合の誤差でも、スクリューの緩みや破折、上部構造の破損、インプラント周囲の骨の吸収につながることがあります。インプラント補綴で本当に重要なのは、「ぴったり合う」こと以上に、余計な力がまったくかからない状態を作ることです。

パッシブフィットという考え方

この状態を、専門的にはパッシブフィットと呼びます。人工歯が無理な力を受けず、自然な状態でインプラントに適合していることです。

もし補綴物にわずかなズレがあり、スクリューを締める力で無理に引き寄せてしまうと、その応力はインプラントと周囲の骨へ加わり続けます。見えないストレスが何年も蓄積した結果として、ネジの緩みや破折、骨吸収、インプラント周囲炎が起こることがあります。

ですから当院が目指すのは、単に「装着できる補綴物」ではありません。応力を極力発生させない状態です。

デジタル印象だけには頼りません

現在は口腔内スキャナーによるデジタル印象が普及しました。嘔吐反射が少なく、印象材のように変形せず、データも保存できます。精度も高い方法です。

ただ、All-on-4やフルアーチのように多数の歯を失った症例では、数十ミクロンというわずかな誤差の積み重ねが最終的な適合に影響します。そこで当院では症例に応じて、インデックスフレームで複数のインプラントの三次元的な位置関係を記録し、センタリングスクリューを併用して模型上でも正しい中心位置を再現しています。

患者さまからは見えない工程です。この見えない精度が、10年後、20年後の違いを生みます。

デジタルでは分からない「締結感」があります

デジタル技術はインプラント治療を大きく進歩させました。それでも、本当の意味での適合精度はデータだけでは判断できないと考えています。

補綴物を装着してスクリューを締めるとき、精度の高いものには独特の感覚があります。ネジが無理なく滑らかに締まり、補綴物が自然に設計どおりの位置へ収まっていく感覚です。逆にわずかな誤差があると、不自然な抵抗を感じたり、スクリューで無理に引き寄せているような手応えが返ってきます。パッシブフィットが十分でないサインです。

もちろん、この感覚だけで判断することはありません。CT画像、スキャンデータ、模型、レントゲン、噛み合わせの状態を総合的に評価したうえでの判断です。それでも、数値に表れない最後の数十ミクロンを見極めるのは、経験で磨いた感覚だという実感があります。

取り外せることを前提に設計します

当院では、上部構造は基本的にスクリュー固定式を採用しています。セメントの残留による周囲炎を防げること、必要なときに取り外して点検や修理、清掃ができること、同じ位置へ高い精度で再装着できることが理由です。

インプラントは治療して終わりではなく、長期間管理していく治療です。将来の手入れまで見据えると、この選び方になります。

私が設計しているのは、20年後の口腔機能です

私はインプラントを埋入しているのではなく、10年後、20年後の口腔機能を設計しているつもりで治療計画を立てています。

その設計を形にするには、安全な手術だけでは足りません。精密な補綴で理想的な適合を実現し、余計な力をかけず、将来もメンテナンスしやすい状態を作る。デジタル技術と長年の臨床経験を組み合わせながら、見えない部分の精度を妥協しないこと。それが患者さまの何十年先につながると考えています。