こんにちは。嶋野歯科医院、院長の嶋野です。
以前、料理が趣味だというのを紹介させていただきましたが、今回は、「味」と「香り」について話をしてみたいと思います。
風邪をひいて鼻が詰まると、何を食べても味がしない。誰でも一度は経験があると思います。実はあのとき失われているのは「味覚」ではありません。失われているのはフレーバー(風味)のほうです。
舌が感じられる味は、意外と少ない
人間の舌が感じられる基本味は、たったこれだけです。
- 甘味
- 塩味
- 酸味
- 苦味
- うま味
近年は6つ目として「脂肪味」も提唱されていますが、いずれにしても数えるほどしかありません。つまり、「いちご味」「コーヒー味」「焼き肉味」といった違いは、舌だけでは識別できないという事です。
では何がその違いを作っているのか。香りです。
アイスの味を分けているのは香り
バニラアイス、チョコレートアイス、抹茶アイス。この3つ、甘さには大きな違いがありません。それでも全く違う食べ物に感じるのは、含まれる香り成分が違うからです。
試しに鼻をつまんで食べてみてください。「甘い」ことは分かるのに、何味なのかが急に分からなくなります。私たちが「○○味」と呼んでいるものの多くは、実は香りが作っているわけです。
「風味」の正体は、口から鼻へ抜ける香り
香りの感じ方には2つのルートがあります。
ひとつは、鼻から吸い込む香り。焼き立てのパンやコーヒーの香りだけで食欲が湧いてくる、あの働きです。
もうひとつが、食べ物を噛んだときに口の奥から鼻へ抜けていく香り。専門的にはレトロネーザル嗅覚と呼ばれ、これこそが私たちが「風味」と呼んでいる感覚の正体です。寿司も、ワインも、コーヒーも、おいしさの大部分はこの鼻へ抜ける香りが担っています。
風邪で鼻が詰まると、このルートがふさがれます。舌は正常に働いているので「甘い」「塩辛い」は分かるのに、料理の風味だけがごっそり消える。「味覚がおかしくなった」ように感じますが、働いていないのは嗅覚のほうなんですね。
料理人が香りにこだわる理由
プロの料理人は、味付けと同じくらい香りにこだわります。ハーブは仕上げに散らす。黒胡椒は食べる直前に挽く。バターは最後に加える。どれも、熱で飛びやすい香りを最大限に生かすための工夫です。
私も台所ではこの順番を守っています。胡椒は食べる直前に挽きますが、挽きたてと挽き置きでは、同じ料理でも別物です。
香りは記憶も呼び起こす
嗅覚は、脳の中で記憶や感情を司る部分と直接つながっています。子どもの頃に食べたカレーや実家の味噌汁を、香りだけで鮮明に思い出すことがあるのはそのためです。プルースト効果と呼ばれる現象で、おいしさが単なる味ではなく、思い出まで含めた体験だといわれる理由でもあります。
料理は舌ではなく、脳で味わうもの
舌が基本味を感じ、鼻が香りを感じ、口が温度や食感を感じる。それを脳が統合したものが、私たちの「おいしい」です。
次の食事のとき、鼻から抜ける香りに少しだけ意識を向けてみてください。いつもの料理が、今までより少し豊かに感じられるはずです。
ちなみに完成した料理は、スタッフや患者さまに振る舞うこともあります。「おいしい」と笑顔になってもらえるのが何よりの喜びです。
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