こんにちは。嶋野歯科医院、院長の嶋野です。

以前、舌が感じられる基本味は5つだという話をした際、6つ目の候補として「脂肪味」に少し触れました。今回はその続きで、基本味そのものの話をしてみたいと思います。

5つの基本味には、それぞれ役割がある

舌には味蕾(みらい)という小さな感覚器があり、その中に特定の味を感じる受容体が並んでいます。食べ物の成分を感知すると、その情報が神経を通って脳へ届く仕組みです。

現在認められている基本味は5つです。

  • 甘味 ── 糖、つまりエネルギー源の検知
  • 塩味 ── ナトリウムなど電解質の検知
  • 酸味 ── 腐敗や未熟な食品の検知
  • 苦味 ── 毒物や有害物質の警告
  • うま味 ── タンパク質(アミノ酸)の検知

並べてみると、単なる「おいしさ」の分類ではないことが分かります。何を食べるべきで何が危険かを判断するための、生きるための仕組みです。

「うま味」は日本人が見つけた味です

5つ目のうま味は、日本の化学者である池田菊苗博士が1908年に発見しました。昆布だしのおいしさの正体がグルタミン酸であることを突き止め、この味を「うま味」と名付けています。

当時は甘味、塩味、酸味、苦味の4つしか基本味と考えられておらず、うま味が独立した味覚かどうかは長く議論が続きました。その後、グルタミン酸を感じる専用の受容体が見つかり、脳内で他の味とは別の経路で処理されることも分かって、いまでは世界共通の第5の基本味として認められています。

「Umami」という日本語がそのまま世界で通用しているのは、なかなか痛快な話だと思います。

6つ目の候補は「脂肪味」

いま最も有力視されているのが脂肪味です。以前は脂っこさは食感の一種だと考えられていましたが、脂肪酸を感知する受容体の存在が分かってきました。私たちが感じている脂のうまさは、舌触りだけでなく味覚として認識されているのかもしれません。

ほかにも候補があります。ご飯やパンを噛んでいると、甘くなる前の段階で独特のおいしさを感じることがあります。これは甘味とは別の「デンプン味」ではないかという研究が進んでいるところです。カルシウムイオンを感じる受容体、鉄剤を飲んだときのあの金属味についても報告されています。どれもまだ研究段階です。

ちなみに「コク」は味ではありません

料理の話でよく使う「コク」という言葉があります。これは独立した味ではありません。

熟成チーズやニンニク、発酵食品などに含まれる成分が、他の味を強く、長く感じさせる働きを持っている。味に厚みを与え、うま味を増幅し、余韻を延ばす。つまりコクとは味そのものではなく、味を増強する作用のことです。第6の味覚の候補にも入っていません。

台所で「コクが足りない」と感じたときに足すべきものが何なのか、そう考えると少し見えてきます。塩ではなく、発酵調味料や熟成した食材の出番だということです。

味覚の研究は今も進んでいます。教科書が書き換わる場面に立ち会えるのは、面白いものです。